ババのきもち。

桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。

2025/07/10

『白酒さんとのズレズレ日記』 其の六 2025年7月10日

 お暑うございます。奇しくも今日は浅草ほおずき市、四万六千日ぎんぎんぎらぎらの夏なんです。皆々さまいかがお過ごしですか?
 はい、なになに、暑気払いに桃月庵白酒師匠の『船徳』でも聴きたいわ、ですと。さすれば、あなたは、あたくしとおんなじ“キモチル”じゃござんせんか?
 はい同感でございます。

 夏と言えば、白酒さんの『船徳』。

 やけに一途で、むやみに真剣。つける薬もないほどわがままな、憎み切れないろくでなし。白酒版若旦那の徳さんは、夏一番のコミックスターでございましょ。
 この若旦那、本来は『お初徳兵衛』からの崩れキャラなので、白酒さんも敬愛する古今亭志ん朝師匠の『船徳』の名演からは、そこはかとなく色男の美学といいましょうか、綺麗なやさおとこのイメージが漂います。演者の志ん朝さん自身も二枚目でおぼっちゃんでしたものねえ。志ん朝師匠の若旦那、『船徳』や『酢豆腐』、たまらない魅力で大好きでした。

 『お初徳兵衛』に通じる志ん朝版『船徳』。その美学とは真逆のべクトルでコミックメイキングした白酒版若旦那は、抱腹絶倒、夏の落語国の人気キャラです。
 Oh! He is a cute but spoiled boy! とアメリカ在住の我が友人も爆笑していた白酒版若旦那の徳さん、ひょっとしたらハリウッド進出も夢じゃないかも。それほど、白酒版の『船徳』のスラップスティックはレベルが高い。映画にも成り得る構成と表現力がまちがいなくある。
 緻密にしてダイナミック!

 白酒らくご、聴くことは観ることなり、でございます。

 そうそう、ご報告。先日、鈴本演芸場で嬉しいことがありました。ロビースタッフの女性に「わたしもキモチルです」とお声をかけていただきました。7月4日のことでした。
 今年の鈴本の七月上席は柳家喬太郎師匠の特別企画公演“壽 令和6年度 芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念興行”。柳家喬太郎師匠が古典と新作の人気投票で選出された演目を披露するというご趣向。
 全て魅惑の演目で、中には『品川発二廿三時廿七分』という圓朝作『お若伊之助』の続編『一中節門付け』に続く興味深い作品もある。さすが喬太郎師匠! 全日程行きたいが、残念ながら仕事の都合と財布の軽さでそれは叶わず、『偽甚五郎』と『ハンバーグができるまで』、そして件の7月4日代バネ(主任の代演)で白酒師匠が喬太郎作品『喜劇 駅前結社』を演った日を堪能しました。



 7月4日、「わたしもキモチルです」という女性の明るい言葉をもらって嬉しいなあという気持ちとはうらはらに、この日はアメリカ独立記念日で否が応でも現実の政治力学のうんざりさを感じてしまっていたことや、オリバー・ストーン監督が鋭く描いたベトナム戦争で傷ついた男の映画『七月四日に生まれて』を思い出したりと、暗澹たるキモチないまぜの中で聴いた『喜劇 駅前結社』。
 なんと作中のキーワードには“ポルポト派”というベトナム戦争に絡む言葉も出てきてのドタバタ喜劇。
 そうだそうだ、こういうストーリーだったなと、どんどん噺にのめり込むうちに、自分の暗い気分がどこかへ失せて飛んで行くがわかるのだ。

 こんな奇天烈な落語を創作した喬太郎師匠も白眉だし、自分流に演じて観客を笑いの渦に巻きいれる白酒師匠も凄腕。モヤモヤが笑いで昇華されていき、すっかり良い気分。
 寄席がハネた帰り道、頭の中に「わたしもキモチル」という声が反復エコーとなって、この喜劇の明るい余韻がさらに増殖していくのでした。

 ワ タ シ モ キ モ チ ル
 ア タ シ モ キ モ チ ル
 ア ナ タ モ キ モ チ ル
 キ モ チ ル
 キ モ チ ル
 キ モ チ ル
 チ ル チ ル
 ミ チ ル

 おっと、キモチルからチルチルミチルになってしまった。ま、いいでしょう。メーテルリンクの青い鳥は、より身近なそこここにいるのですから。あちたりこちたり、落語の笑いの中にも見つけましょうよ、幸せの青い鳥を。
 落語の幸福論、著者は皆さんひとりひとりなのですから。
 ことほど左様に、良質な落語は現実を異化するチカラがありまする、る~る~る~、おっとキタキツネが。

 あ、そうそう、喬太郎師匠の鈴本でのこの特別企画の十日間、我がざぶとん亭風流企画にありがたいメールが数本舞い込みました。
 「喬太郎師匠と田中泯さんが共演しているDVDはまだ購入することができますか?」
 という内容の問い合わせメールです。
 ん? なんのこっちゃ? ですよね。
 ご存じない方がほとんどだと思いますので、この機会にご紹介しましょう。

 今、巷では映画『国宝』の感動を伝える感想がSNSやニュースになっていることは皆さんもよくご承知の通り。僕自身も感動して二回観ました。
 吉沢亮さん横浜流星さんという主演俳優のみごとな演技と共に、舞踊家であり俳優の田中泯さんの想像を絶する舞いと役作り、その圧倒的な存在感が大絶賛されていることもご存じでしょう。
 実は、遡ること十数年、夢枕獏先生が柳家喬太郎師匠にあてがきした落語『鬼背参り』(おにのせまいり)に感動して、ふと金春禅竹の『芭蕉』の読経する僧とその霊力によって女となって現れる芭蕉のような関係の舞台を表現したいと思いたち、敬愛する田中泯さんに相談したのです。

 カタル 落語家・柳家喬太郎師匠
 オドル 舞踊家・田中泯さん
 このお二人だけでこそ成立する劇的な舞台。

 僕は無謀にも、こんな大胆な企画を熱量だけで伝え、なんとお二人の天才芸能者にご理解頂き、4公演が実現しているのです。

 初めの公演は、谷中周辺のアート関係者さんを田中泯さんに紹介して頂き、東京藝術大学のプロジェクトとして天王寺を会場にして行った『鬼背参り』(2009年)。
 次は、紀伊國屋ホールにて、喬太郎師匠の手がけた『死神・グリム童話“死神の名付け親”より』(2012年)。
 そして、屋外の景色を借景に、埼玉のキラリふじみのホールと屋外の池で行った『~隻眼譚・小泉八雲へ~雉子政談・梅津忠兵衛』(2017年)
 最近では、再び谷中のアート集団、アートリンク上野谷中のお力添えで寛永寺開山堂(両大師)様で実現した『田中泯・柳家喬太郎 場オドリと場ラクゴ』(2023年)。

 それぞれの公演を実現するために様々な貴重な経験をさせて頂き、我がざぶとん亭風流企画の大事な財産となっております。
 喬太郎師匠、田中泯さんへの高い注目度のおかげで、どの公演もチケットは即完売になったことはいうまでもありません。



 このうち、『死神・グリム童話“死神の名付け親”より』と『~隻眼譚・小泉八雲へ~“雉子政談”“梅津忠兵衛”』をDVD作品として、最初の『鬼背参り』からの経緯を未公開カラー写真と文章の小冊子『風流なる流儀 柳家喬太郎・田中泯公演制作ノート』として世に出しました。
 三年前のことです。
 記者会見などプロモーションや映像配信で来福レーベルも参加してくれたことも明記しておきますね。落語を生業とする来福レーベルの御助力は本当にありがたいものです。
 そして、いま映画『国宝』での田中泯さんの見事な芸術性により、三年前に発売したDVD作品が再び話題になっているようです。

 「喬太郎師匠と田中泯さんが共演しているDVDはまだありますか?」
 「はい、ありがとうございます。ございます!」
 この会話ができることが、どんなに光栄なことか。

 興味を持たれた方は、ざぶとん亭風流企画 zabutontei.yoyaku@gmail.com にご連絡くださいね。
 あいにく『隻眼譚』は在庫がゼロなのですが、『死神』はより売れることを想定して百部多く作っておいたので、幸いにも在庫があります。ありますと言っても、そう多くはありませんが。
 制作ノートも同数ほどございます。DVD・3,000円、制作ノート・800円(税別)です。


 偶然というものは面白いもので、先日、甲府にて春風亭昇太師匠の独演会を主催した折、夢枕獏先生と田中泯さんが駆けつけてくださり、久ぶりに一献酌み交わしました。焼き鳥をつまみながら、話題が弾み、映画『国宝』のこと、ヤノマミのこと、カヌーの冒険のこと、縄文のこと、もちろん谷中の鬼背参りのこと、などなどなど。
 落語を軸に、劇場にもろびとこぞりて、呑み屋にまれびとこぞりて、です。

 さてさて、そんなこんなでこの夏も落語界は暑さに負けずに活況を呈してますね。立川吉笑さんの座・高円寺での真打披露興行も大成功だったし、寄席の夏の特集も行きたい企画が目白押し。

 明日僕は、7月17日『白酒のキモチ。』十周年記念落語会ゲスト瀧川鯉昇師匠の打ち合わせ、そして立川志の輔師匠の『真夏の大忠臣蔵in下北沢』へ。
 お楽しみはこれからだ!