ババのきもち。

桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。

2025/09/30

『白酒さんとのズレズレ日記』 其の八 2025年9月30日

 落語を生業にさせて頂いているわたくしババにとって、今年の9月はまるで夢のような1か月でした。
 充実したこの落語月間の記憶を落語ファンの皆様と共有したく、速足で振り返ってみますもんのすけ。ちょいとお付き合いあれ。
 師匠方、敬称略でごめんなさいね。

 先ず9月3日、渋谷大和田、伝承ホール。
 我らが『白酒のキモチ。落語会~昇太師編~』。
 この素晴らしい二人会の大成功の内容については、後半でみっちり書いております。ここでは端的に結論のみ明記しておきましょう。
 新たなる伝説誕生、感動的でした!



 続いて9月10日、同じく渋谷。僕のざぶとん亭風流企画主催で柳家喬太郎『風の鞄~新作落語のゆくえ』初回ゲスト立川志の春。
 喬太郎『同棲したい』『鶏もつ煮込み』、志の春『お玉桜』『絶校長』。
 両師匠、最高の高座。新作落語の魅力をお届けする新シリーズ出足好調!



 ババの相棒、らくご@座松田健次の新宿・紀伊國屋での人気企画『両極端の会』(三遊亭白鳥・柳家三三)が9月23日。
 そして、らくご@座は、8月から9月にかけて異色の名演『俺のカジカザワ』がソニー来福レーベルから配信。
 柳家喬太郎『鰍沢零』、入船亭扇辰『鰍沢』、三遊亭白鳥『鬼コロ沢』。
 ご覧頂いたお客様から鳥肌が立つほど感動したと大好評なり。



 お江戸ばかりじゃござんせん。
 我が二拠点生活のベース甲州に於いてもざぶとん亭主催二公演。

 9月17日、山梨県立文学館。『落語ぶんがく亭・柳家喬太郎独演』。
 横浜の嶺の灸が出てこない柳派の『強情灸』、圓朝作『お若伊之助』の後日談『品川発廿三時廿七分』、初期の名作『夜の慣用句』の素晴らしい三席。
 なんと贅沢な内容か!

 9月25日、YCC県民文化ホール。今年18年目の『立川志の輔in甲府』
 メタ落語とも言うべき爆笑『三方一両損』で世界の分断に一石を投じたかのような痛快メッセージ。珠玉の『浜野矩随』では、静かなで深い語り口で表現者の奥義を示してくれた。

 何れもお客様と共に感動することのできた価値ある御仕事。
 落語家さんという藝能者の凄さを実感しましたよ。
 そして今月は、御仕事ばかりじゃござんせん。プライベートの落語観賞も実に愉しかった!
 9月、何度も通った寄席や落語会。
 ここからは師匠方にちゃんと敬称つけなきゃね。

 池袋演芸場9月中席での柳家さん花師匠と柳亭小燕枝師匠がプロデュースした若手真打連続主任の昼席と柳家喬太郎師匠主任の夜席。喬太郎師匠をおっかけて3回通いましたよ。昼夜ともに連日の大入りで、寄席の楽しさ満喫。

 そして、上野鈴本の中席夜は、林家きく麿師匠の爆笑企画『スナックヒヤシンス祭り』! こちらも大盛況! きく麿師匠ご本人はもちろんゲストの師匠が『スナックヒヤシンス1話』を珍演するのが売り。各師匠本来の持ち味と作品中の登場人物とのギャップがたまらなく、むひひひひなのです。僕が行けたのは古今亭文菊師匠と柳家はん治師匠、ね、想像してみてくらはい。むひひ。

 ホール落語では、本多劇場での春風亭昇太師匠の『オレスタイル』、初日の9月8日に。『お化け長屋』『明烏』の実に工夫された古典落語にはさまって新作『僕への手紙』が胸キュンでした。昇太さん気持ちよく弾けて、客席の盛り上がりも凄かったよ。打上げも落語愛溢れる会話で上質な時間を過ごしました。

 そして、昇太師匠の新作仲間、林家彦いち師匠が18年ぶりに出演した朝日名人会が9月20日。蜃気楼龍玉師匠の『大仏餅』、春風亭一朝師匠『唐茄子屋政談』、橘家圓太郎師匠『らくだ』の燻し銀の素晴らしい古典と共に、彦いち師匠『神々の唄』。僕のイメージの中ではスーザンボイコの歌声が朝日ホールに響き渡ったよ~♪ 四席とも実に聴きごたえあり、名門落語会もどんどん進化していることに気づく。進化していることが長く続く秘訣なのですね。

 でね、この9月は寄席、落語会の他にも愉しき事色々。22日に、立川志の彦師匠の真打昇進披露パーティ。東京會舘の美味しい料理と共に、様々な芸人さんの面白い出し物。極め付きはラスト近く、チアガールのダンスを噺家さんにバトンタッチする演出で、なんと志の輔・一之輔・三三の売れっ子三師匠がセンターで並んで踊り跳ねるという場面! 昭和のテレビに例えると『新春かくし芸大会』的なノリで気分はルン♪ 〆は高田文夫先生の爆笑トーク。笑い過ぎてもはや涙目。

 そうそう、遡って9月7日には、湯島で落語協会の謝楽祭もあったんだ。
 芸人さんの真のおもてなし魂ビンビン感じましたよ。
 白酒師匠の弟子の黒酒さん頑張る雲助一門記念グッズの長蛇の列が凄かった。
 橘家文蔵師匠のもつ鍋も、柳亭小燕枝師匠のカレーも美味かった!
 実行委員長の柳家三三師匠も頑張ってたなあ。
 来年の委員長は江戸家猫八師匠、酷暑を避けて6月7日の開催とのこと。今から楽しみです。

 つまり、9月は僕、ほとんど落語通いの日々でございました。
 敬愛する寺山修司の言葉を借りるならば、〈書を捨てよ、街に出よう〉ならぬ、〈職を捨てよ、街に出よう〉であります。
 そんなこんなで、ごめんなさい。
 このズレズレ日記の原稿が遅くなり、皆さまお待たせいたしました、
 いやむしろ、お待たせしすぎたかもしれません。(村西とおる風)
 さあ、ここから本題ですゾ。真面目に書きますゾ。(スナックヒヤシンス風)

 WEBラジオ白酒のキモチ。10周年記念として、3か月連続で開催した『白酒のキモチ。落語会』は、目玉企画として、白酒師匠がゲストの先輩師匠方のネタを教わり、白酒師匠独自の工夫を凝らし披露するという、お忙しい白酒師匠にご負担をおかけするものでしたが、労を惜しまず表現者魂を燃やす白酒師匠が実に逞しかった。

 これまで、瀧川鯉昇師匠からの『王子の狐』、柳家喬太郎師匠からの『綿医者』を大成功させ、お客様から大喝采を浴びてきました。
 春風亭昇太師匠が後輩の白酒師匠にどんな球を投げてくるのか、興味津々で待ちわびた我々。

 そして遂に、賽は投げられました。
 シリーズ完結の第三回目、
 昇太師匠からの演目は、
 なんとなんと僕が密かに希望していた演目、『パパは黒人』でした。

 インパクトのあるタイトルでしょ! ご存じない方の為に、昇太師匠作『パパは黒人』を短く解説しますね。

 主人公は娘と父親。
 「クリスマスどう過ごすの?」学校での女の子同士の会話。
 つい見栄を張って「彼氏とデート」とついた嘘。
 その一言から始まる、父親を巻き込んだ聖夜のドタバタ喜劇です。
 おもわぬ展開の末に微笑ましいハッピーエンドが待っています。
 『パパは黒人』は、娘と父の絆のオハナシでもあり、父親の自信回復のストーリーでもあり、黒人賛歌の要素もあり、上質なウォームアットハート・コメディなのです。

 この作品、僕も大好きで、しかも構成がとてもしっかりしているから、あかね書房さんの落語絵本シリーズをプロデュースさせていただいた時にね、昇太師匠作品で候補のひとつに挙げていたんです。最終的に『力士の春』に寄り切られましたが、今でも絵本にしたいという気持ちは持ち続けています。

 さて、この名作をいつ昇太師匠が作ったのかを手元の資料(2011年白夜書房『落語ファン倶楽部』VOL•14まるごとぜ~んぶSWA!特集)で追ってみますね。
 さっそく載ってました! 2004年10月に当時まだ落語を生業にしていなかった僕が故郷石和(山梨県)で開催していた『石和ざぶとん亭』で口演した記録がありました。
 ということは、少なくとも20年以上前に誕生したことは間違いない事実。
 僕の記憶を辿ると、当時からポップなノリではあるけれど、同時に味わい深さも併せ持つ名作として落語ファンの間では評判の一席でしたね。
 ギャグだけではなくノスタルジーやセンチメントを感じさせてくれて、老若男女すべての年齢に広く受け入れられる昇太師匠ならではの作品です。こういった才能が、昇太さんは天才! という評価を受ける理由だと思います。僕もそう思います。

 そして、昇太師匠の人気上昇と共にこの噺もどんどん成長していきます。
 2011年末、一世を風靡した創作話芸集団SWA(春風亭昇太・三遊亭白鳥・柳家喬太郎・林家彦いち)が第一次活動休止の為、『SWA FINAL』と名付けて下北沢・本多劇場七日間十公演を行った際も『パパは黒人』は上演されているのです。

 このSWA(すわ)は凄まじい人気ぶりで、このファイナルの十公演全てが即完売、満員御礼でした。そのことだけでも当時の熱狂ぶりがわかりますね。
 若い落語ファンでSWAを知らない方がいらしたら、ソニー来福レーベルからいくつものタイトルが出ているのでぜひ聴いてほしいし、近年、少しずつ活動を再開しているのでぜひ実際の公演に通ってほしいな。ただし、今でも人気であっという間にソールドアウトなのでお気をつけあれ。

 さて、2011年のSWAファイナル連続十公演の大事なラストを飾ったのは、今まで創作した別々の四つの演目をひとつの物語としてアレンジし直すというSWA独特のブレンドストーリーという手法を用いて上演された『クリスマスの夜に』という公演。この大事な会で、作者である昇太師匠によって『パパは黒人』は演じられているのです(このSWA FINAL『クリスマスの夜に』公演も前述した通り、来福レーベルから同タイトルのCD作品として発売されているので、ぜひお聴きいただきたいな)。


 ことほど左様に、『パパは黒人』は、昇太師匠にとっても大切な演目なのです。
 時代が急速に流れ、コンプライアンス重視の自主規制の波で、『唖の釣り』などの演目がオンエアされにくくなったり、黒人という何の罪もない言葉にも状況により影響が出ていたり。でも大丈夫、ポリティカル・コレクトネスはもちろん大事ですが、ほとんどの落語の場では差別意識はありませんし、しかも、この作品ではかっこいい存在としての黒人が表現されているのですから。

 珍しくこのババが熱弁を奮いましたので、いかに『パパは黒人』が面白く、しかも昇太師匠が大事に育てあげた作品かということがお分かりになって頂けたと思います。
 問題は、この名作を桃月庵白酒師匠がどう解釈し、どう表現するか。
 企画の言い出しっぺの僕は、正直、公演の3日前から気になってなかなか寝付けませんでした。寝ても覚めても『パパは黒人』、ババは寝不足。

 ところがどっこい、心配ご無用でした! 
 白酒師匠がマクラから『パパは黒人』に入った第一声から昇太ワールドを彷彿させる音色とリズム!
 たちまち観客を巻き込み、昇太師匠流のデフォルメした面白さをリスペクトし継承しつつ、現代のギャグも入れ込み、湧き起こる爆笑の渦!
 しかも、しかもですよ、サゲのひと工夫で昇太師匠のエンディングにプラスする或るサプライズを足し込んだのです!
 白酒流『パパは黒人』の誕生。
 この秀逸なサゲが聴く者の心をさらに幸せにしましたよ。

 満場割れんばかりの拍手の中、
 舞台に歩み出た昇太師匠が「おつかれさま」の後、
 ひとしきり拍手を煽った後に、
 一旦落ち着かせた客席に向かって放った一言が素敵だった!
 この一言で、昇太師匠の白酒師匠への称賛が伝わりました。

 「桃月庵白酒、おそるべし!」

 そう昇太師匠が叫び終わるや否や、客席は再びの大喝采。
 喜ぶ白酒師匠の表情も輝いてました。
 いやあ、凄い高座だった。
 なんかね、SWAで新作落語が成功する瞬間の観客の反応を彷彿させてくれましたよ。こんな嬉しいことはない。

 で、気になるでしょ? 白酒師匠が作ったサゲのサプライズ。コレ書いちゃうと聴いた時の喜びが薄くなって勿体ないので、ごめんね。
 きっと、どこかで演ってくれるでしょう(来福レーベルさんが、ひょとしたらなんとかしてくれるかも。それまでお待ちを。)。



 前回、柳家喬太郎師匠が「『喧嘩長屋』とか『茗荷宿』をすごく面白くする才能がある白酒さんだから、自分の『綿医者』を託したかった。」と仰ったと紹介しましたが、おそらく昇太さんも同じ気持ちで、自分の大事な演目をお渡しになったのだと感じました。
 改めて、桃月庵白酒師匠と先輩三師匠の信頼関係に敬意を表します。

 さて、この9月の高座の感動の記憶を皆様と共有できたことを喜びながら、10月の扉を開けることに致します。

 10月の落語界、無謀過ぎてめちゃ面白い企てがありますよ。
 本物の丁髷(ちょんまげ)を結っていることでお馴染みの、
 立川志の八師匠が入門25周年を記念して、
 歩いて東海道五十三次を制覇する目標で、10月1日、お江戸日本橋を七つ立ち(午前4時出発)で、京都まで歩くそうです。
 関所や街道のそちこちで落語するところを探し、投げ銭で落語会も開催予定。しかも目標五十三回だって。すぐ先は決まってる会場もあるけど、いまから見つけるらしいよ。いいねえ、自分への無茶ぶり。
 このチャレンジ精神を応援しようじゃないですか。
 ~丁髷と落語で歩く東海道五拾三次~
 『立川志の八の東海道中膝瓜毛』
 丁髷が野菜の瓜に似ているから栗じゃなくて瓜なんですって(笑)。
 股旅姿のちょんまげ野郎、立川志の八師匠。ハチさんにぜひご注目あれ。



立川志の八公式HP


 志の輔師匠からも甲府の独演会の打上げで、
 「ババちゃんさあ、志の八がさあ、バ~カなことやるんだよお、歩いて五十三次だぜえ、応援してやってよ~」って。心配らしいぜ、可愛いなあ。

 マジ、丁髷姿の立川志の八師匠の古典落語の高座を観ているとここは江戸の寄席か、と感じることが多いですよ。師匠志の輔イズムが浸透していてとても素敵なんです。
 立川志の八、リアル侍タイムスリッパーなんじゃないか。

 落語の未来は明かるいぜ! 
 僕のズレズレ日記、また十月も読んでちょんまげ。