ババのきもち。
桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。
2025/10/31
『白酒さんとのズレズレ日記』 其の十 2025年10月31日
この秋の日本、田舎暮らしの僕には、各地のクマ騒動が身近に感じ、『なめとこ山の熊』を書いた宮沢賢治のキモチに寄り添い気味の日常でがんす。クマの市街地出没の原因は温暖化だとか、コロナ禍に人の出入りの少なくなったエリアが餌場になったクマの成功体験からだとか、色々言われていますが、いずれにしても我々は色んな命と共生していて、人間様だけの地球じゃないってことに気づかされます。
クマが家に入っちゃう困った事態も増えてるみたいで、どなたか落語家さんに『猫と金魚』ならぬ『クマと金魚』なんて改作を演って欲しいワタシです。
『ねこきん』ならぬ『くまきん』。
プーさんみたいな可愛い仔熊と極真会館の熊殺しウィリー・ウィリアムスみたいな寅さんでね。ドタバタのあとのサゲはどうしましょ? 寅さん、猫パンチならぬ熊パンチをくらって目の周りにアザが出来ちゃって、寅さんがパンダになっちゃった。これじゃ熊にゃ勝てないね、みたいな。
白酒師匠、演ってくれないかなあ、なんてね。なはは、ん、怒ってます?
はいはいゴメンねで、今回もヨーイドン。
落語界は今月も喜ばしいことが起きました。柳家さん喬師匠が2025年文化功労者に選出されましたね。
おめでとうございます!
落語ファンとしても喜ばしい限りです。落語家さんでは桂米朝師匠以来お二人目の快挙とのこと。ぜひ、近い将来に文化勲章も、と夢が膨らみます。

そしてこのニュース、僕が個人的に嬉しかったのは、さん喬師匠と同時選出のお名前の中に、常日頃親しくさせて頂いている恩人、僕が心から敬愛する人物のお名前を見つけたことです。
それは、ダンサーで俳優の田中泯さん!
新聞を読んでいて、文化功労者の中に泯さんのお名前を見つけた時、びっくりして座りしょ、じゃない、びっくりして小躍りしちゃいましたよ。
そしてすぐに思い浮かべました。
柳家さん喬師匠と田中泯さん、このお二人同時の文化功労者選出に僕以上に喜んでいる噺家さんがいらっしゃる。
そうです。
白酒師匠の兄貴分、柳家喬太郎師匠なのです。
柳家さん喬師匠の一番弟子が喬太郎師匠ということはご存じの通り。師匠を尊敬してやまない喬太郎さん。仲睦まじい師弟であることでも知られています。
そして、喬太郎師匠は田中泯さんと何度も共演し、お互いの芸を高く認め合う表現者同志なのです。

田中泯さんと喬太郎師匠の関係をご存じない方の為に、ほんの少し経緯をご披露しましょうね。
遡ること二十数年、ババが柳家喬太郎師匠の『鬼の背参り』(夢枕獏先生原作)という凄まじい落語を初めて体験した時のこと。どうしてもこの噺の背後で田中泯さんに踊って欲しいという衝動に駆られました。その創作熱が瞬時に沸騰して、無理を承知でお二人に相談。豈図らんや、お二人ともすぐに快諾して下さった。
なんという幸運! これはなにがなんでも実現しなくてはと東奔西走。田中泯さんのアドバイスを受け、東京藝術大学や谷中アートリンクの助けを借りて、会場として谷中天王寺をお借りでき、なま火の演出も用意周到に準備し、お二人の至芸のおかげで心に残る見事なセッションが実現したのです。
それ以来、紀伊國屋ホールでの『死神の名付け親』、埼玉のキラリ☆ふじみでの『隻眼譚』(小泉八雲『雉子』『梅津忠兵衛』)、上野寛永寺圓珠院での『場オドリ場ラクゴ』と四公演も血沸き肉躍る舞台を、このお二人に創造して頂いたのです。紀伊國屋と埼玉は二日間開催だったので、回数的には六回の真剣勝負でした。

ことほど左様に、田中泯さんと柳家喬太郎師匠は深いご縁なのです。
そんな喬太郎さんだもの、この度の文化功労者の発表をさぞ喜んでるだろうなあ、と思っていたら、啐硺同時、発表の翌日に僕のところに喬太郎師匠からメールが届きました。プライベートなので引用はしませんが、そりゃあすっごく驚き、すっごく喜んでいらした。さっそく、田中泯さんのところへお伝えしましたよ。善きことの連鎖、その輪の中に加われて、ざぶとん亭もこの上なく幸せです。

さて、そんな思い出に浸っていたら、7年前のめでたきことを思い出したのです。
2018年、桃月庵白酒師匠が芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した時のことを。
あの時も嬉しかった。実力、人気、評価、人望、五分に一度吐く毒舌以外は全てに申し分ない白酒師匠なので(笑)、この受賞は誰からも祝福され、とてもキモチの良い出来事でした
この栄誉ある授賞式を目撃しなくてはと、ソニー来福レーベルの吉岡氏と共に不肖ワタクシめも演芸ライターとして表彰式を取材しに行きましたよ。
なんかね、白酒師匠ご本人よりも、周りの僕らが盛り上がっちゃって、一緒に受賞した人気俳優菅田将暉さんと写真撮ろうよ! などと勝手にはしゃいでおりました。師匠は至って平静で、大賞受賞の入船亭扇遊師匠と共にリラックスして舞台に座っていましたっけ。実に立派で、誇らしい姿でした。

後日、この受賞を語る際、御慶、御慶というような大袈裟な態度はなく、案の定、味のある逸話にしてマクラで喋っていましたよ。そのギャグは、例えば賞金の使い道のハナシとか、また或る時は関係するお偉いさんの三面記事を茶化したり等々、照れ隠しにもってこいの明るいブラックジョークの連発でした。こういう白酒さんの洒脱なシニカルトーク、たまんないっすね。
五街道雲助師匠が人間国宝になった時も、白酒さん曰く、〈誠にめでたいことではあるんですけれど、自分が将来の人間国宝と洒落で言っていたのが使えなくなりました〉だとさ。あはは、そういやぁ、我らのウェブラジオ収録時の冒頭挨拶でも〈未来の人間国宝、桃月庵白酒です〉のフレーズ多かったなあ。
めでたいことが起きると、めでたい洒落ができて、めでたさの倍返しですな。
国からの貴い賞や認定というのは、国や省を代表する偉い役職のお偉いさんから頂くという形式ですが、そのことよりも、その道に長けた選考関係者の皆様から正しく評価、称賛されて選ばれたということ、そしてその芸域を愛するファンからの喜びの拍手喝采が起こり、益々関心が高まり、多くの人々の心的領域に素晴らしい影響を与えるということにこそ価値があるのだと思います。
遠慮なく屈託なく女王陛下から勲章を貰ったビートルズ、後日、反戦の気持ちを込めて勲章を返還したジョン・レノンのように、名誉ある賞を単にありがたがるばかりではなく、自分の表現にどう反映させるかが興味深いですね。
学問や芸術は、いかなる権力的力学から遠く独立して常に自由であって欲しいと、つくづく思う私であります。
そうそう、この十月、春風亭一花さんがNHK新人落語大賞に輝き、東京の落語界は祝福ムードが益々高まりましたね。
一花さん、おめでとうございます。

一朝師匠も喜んでるだろうなあ。師匠孝行、本当に素晴らしい。
その上、ただ今入りました某楽屋雀からの噂によりますと、春に紫綬褒章を受章されたばかりの、かの柳亭市馬師匠がまたしても輝かしい賞を手中にしたらしい、とのこと。
今度はどんな賞かしらん?
はい、今、正確な情報筋から市馬師匠のニュースの真相が届きました。
えーと、ん? なんとなんと、
日本歌手協会様から今年の話題賞を受賞した、とのこと。
あは、落語じゃないんだ~。でも、こりゃ素敵な賞。市馬師匠の『俵星玄蕃』絶品だもんなあ。『一本刀土俵入り』も聴きたくなって来ちゃったよ。年末に向かって気分アゲアゲのこのニュース。この勢いで、紅白歌合戦に出て欲しいぜ。
こんな風に、おめでたムードで落語界の今月が終わろうとしています。
今日は10月31日、都内の寄席では魅力的な余一会もあるのですが、奇しくも世間はハロウィンの大騒ぎ。渋谷に繰り出す若者には、せめてハロウィンの起源くらいは勉強して欲しいところ。発祥の地アイルランドの駐日大使館の公式SNSを開きさえすればすぐに情報に辿り着くのにな。
んでさ、一旦、理解した若者がね、民俗学的な興味が出てきたり、死生観を考えたりしながら、落語の『死神』とか『地獄八景』とか、『死ぬなら今』とかに辿り着いて、寄席や落語会に押し寄せちゃう、なんてことを妄想するワタシです。いいよ、ハロウィン衣装のままおいでよ! でも、アダムスファミリーみたいな奴らが末広亭に来たらそれはそれでどんなになるのかしら? 大丈夫、クマが家に侵入したみたいなパニックにはならないと思うよ。少なくとも僕ら、お盆には、あの世から来た爺ちゃんや母さんや友達と一緒に過ごしているのだから。
さて、僕のアタマがおめでたくなっちゃったところで、今回はここまで。
ジャック・オー・ランタンのパンプキンよりも『唐茄子屋政談』のかぼちゃの方が好きだよ~という皆々さまに、
ざぶとん亭のかぼちゃ野郎ババより愛を込めて、
ハッピーハロウィン~! それじゃ、ダメじゃん。ま、いっか。
またね~。
追伸。
近畿地方の皆さま、本日10月31日、丁髷(ちょんまげ)に三度笠、股旅姿ですたすた歩いている男をお見かけなすったら、そいつぁハロウィンじゃござんせん。
入門二十五周年目の一大決心で、東海道五十三次を歩いて、宿場ごとに落語を届けて回るというとんでもないことをしでかしている、
旅する落語家、
立川志の八師匠でござんす。
東海道中膝栗毛の栗を取り、頭の上の丁髷を瓜に見立てて、この修験の如き落語旅を『東海道中膝瓜毛』と銘打って歩き始めたこの厳しい旅。
どうやら、まもなく琵琶湖。
本日は、第五十一宿目、石部宿の手前を、駆けつけた弟弟子、立川志の春師匠とライブ配信しながら歩いている。(実は今、聴きながら書いている。すげえ過酷な旅なのに二人で飄々とおバカトークしていて、これがやたらに面白い!)
街道の皆さん、その男たち、爆笑につき、ご注目あれ!
志の八さんは、丁髷も本物、毎朝結ってます。
股旅姿だけど、けしてチンドン屋さんとまちがえないでね。見分け方を桃月庵白酒師匠が『白酒のキモチ。』で教えてくれています。「チンドンの太鼓を抱えていたらチンドン屋、抱えてなかったら志の八さん」ってね。
この日記がアップされる頃は、きっと五十三次を完全踏破していることでしょう。
この前代未聞の志の八師匠の旅『東海道中膝瓜毛』の苦労話やオモシロ話を真っ先に聞ける落語会があるとのこと。


『立川志の八・立川志の春二人会 志ブリングス 』 11月9日午後2時開演、横浜の関内ホール
http://www.shinohachi.com/live/2633.html
僕も行くんだ、一緒にどうです? 二人の落語もとても面白いですよ。
ちょいと早いが、立川志の八師匠、東海道五十三次踏破おめでとうございます!