ババのきもち。
桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。
2025/11/30
『白酒さんとのズレズレ日記』 其の十二 2025年11月30日

皆さん、お元気ですか? 原稿を書いている今日で霜月は終わり。
あ~、一晩寝たら、今年もあいつが来ちゃうよ~。
早いよ~、もうちょっと待っててねって言っておいたんだけどなあ。
せっかちなんだよね、師走さん。
今年も早いねえ、明日から12月です。
僕の齢のせいだけではない気がします。
ますます世の中が加速されていく。
光陰矢の如しはカレンダー的な日常だけじゃなくて、仕事で使う思考・判断レベルでも即時性が求められていますよね。
初め頼りなかったChatGPT君もどんどん改良され正確さが増して、生活や仕事をサポートしてくれるんだけどね、なんか便利さのせいでせっかちになっちゃうよ。上手に使って、余った時間で自分らしいことができるはずなんだけどね。タイパ、コスパという言葉が聞こえ、効率化というパブリックプレッシャーが自分の中に入り込んで来て、自己暗示的にせっかちになっちゃってるんでしょう。あたしゃ、気の弱い男です。ああ、気ぜわしい。
でもね、忙しい時ほどじっくり考え、しっかり歩みたいものです。
そんな時、いつも思い出す落語の中の常套句。
「落ち着きゃあ一人前だ。」
いいねえ、煙草を止めた自分にとって、深呼吸と同じくらいに必要な落語の言霊。
師走を迎える精神状態、今年の僕はこんな風です。
皆様はいかがですか?
もし、少しでもそんな気ぜわしさ感じていらしたら、白酒師匠のこころ豊かなエピソードがありますよ。ちょっと前の話ですがね、落語家さん同士のちょっとした世間話に嬉しい発見があったのでご紹介しますね。
それは、数年前の『白酒のキモチ。』収録の或る午後。
その回のゲストとして、林家彦いち師匠においで頂いた時のオハナシ。
笑顔で挨拶しながら颯爽と控え室に入って来た彦いち師匠、肩に背負っていた鞄を机に置いて、椅子に座るや否や、
「白酒、アレ観た?」
「もちろん観ましたよ。」
白酒さんが彦いちアニキの言葉を食い気味に返事をする。
なんの話題だろう?
「白酒、泣いた?」
「兄(あに)さんは?」
「あったりまえだろ。あいつ、最期までがんばったんだよな。」
「そうそう、上は最初、あんなに長く働かせないつもりだったのに。」
「90日の予定が15年もだぜ。普通できないよ。」
「足、怪我しちゃうし、天候はずっと悪いし」
「台風が止まない中で、たった独りで仕事するんだぜ。つらいだろ。」
「で、もうダメだろうと思った時、歌で目を覚ますんですよね」
「そうそう、歌!」
「たった一人で生きてたんですもんね」
「あいつ、命が尽きる時、月を見上げてたなあ」
しみじみ、二人で、こんな風に。
なんの話だろう? 江戸の職人さんが仲間から離されて、遠くの領土で別荘でも作らされているうちに孤独に死んじゃったのかなあ、などと勝手に思い込んでいた僕。しかし、それにしては、声の調子が明るいぞ。
ますますわからなくなったので、訊いてみた。
「え? 知らない? “おっぴい”のこと。」口を揃えて答えてくれた。
おっぴ? おぴい? なになに、そんなあだ名の登場人物は聞いたことない。誰かの新作落語?
そんな僕の見当違いを見かねて、詳しく教えてくれました。
“おっぴい“というのはOPPY。NASAの火星探査機オポチュニティの愛称とのこと。
お二人は、Prime Videoの映画『おやすみ オポチュニティ』(原題Good Night Oppy)の話をされていたのでした。
この火星探査機オポチュニティは、NASAの当初の予定期間90日を遥かに超えて15年もの間、たった1人(1機)で孤独な活動を続け、故障や事故の緊急事態も克服し、酸性の水の存在を発見したり、宇宙の気象を観測したりと大活躍。それだけでも凄いのに、晩年に砂嵐に見舞われて、もはや絶望の状況の後で再び交信を可能にしてNASAの人々を感動せた。そんな奇跡を起こしたのだという。
その現代科学の最先端を駆使した火星探査機、つまり機械をですよ、まるで長屋の仲間みたいな親密性で喋るこの二人の落語家さん。
高座のピン、火星のピン、どちらも身体一つの一匹狼の職人気質。通じ合うものがあるのでしょうか。
最先端の機械にも人情を感じ、心を寄せることを当たり前にやっている。
この心の豊かさ。
これぞ落語家さん!
明日からの師走。パブリックプレッシャーとまではいかないまでも、気ぜわしさを感じている皆さまのキモチが、この白酒さんと彦いちさんのほんわかエピソードで少しだけのんびりさを取り戻すことができたら、嬉しいです。
そして、これは蛇足なんですがね、皆の衆。この二人の師匠の会話を聞いて、僕はさっそく観たのです『おやすみオポチュニティ』を。それはそれは感動的な映画でしたよ、もちろん。
でもね、同じ内容でも、二人の師匠の生の会話として出会った物語の方が、僕には断然面白かったことを隠さずに書き添えておきまする。
言葉の職人落語家さんが、一台の火星探査機おっぴいさんを、本当の仲間のような感覚で喋ったら、思わぬ温かみが添えられて、新作落語が生まれ出た。こんな素敵なことが自然にできるお二人に拍手喝采です。
『スターウォーズ』のC-3POとR2-D2が、『七人の侍』の太平と又七をモデルにしたように、科学の粋を集めたソリッドな世界に、落語家さん的な庶民感覚を添えると、より面白い効果が出ることを発見できたエピソードです。
映画の配給会社にお知り合いがいらしたら、洋画のプロモーション、町山智浩さんの解説と共に、彦いち・白酒トークも交えたら、より素晴らしくなってすっげえでかい効果が得られるかも、とぜひお伝えくださいませ。
実現出来たらいいなあ。そんなことを夢想しつつ、さあて、師走に突入しますよ。
★林家彦いち師匠がゲスト出演しています。ぜひ~!★
【YouTube来福レーベル公式チャンネル】
The Last Nightアーカイブ「日刊 白酒のキモチ。The Five Days ~寄席がハネた後に~」
https://youtu.be/fAKmmhsrDJo
