ババのきもち。

桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。

2025/12/26

『白酒さんとのズレズレ日記』 其の十三 2025年12月26日

 年の瀬、大つごもり、明けりゃもうすぐ楽しいお正月でございます。
 皆さま、どうぞ年の瀬をご健勝にお過ごしくださり、よいお年をお迎えくださいませ。それでは、本日はこれにて失礼いたします。

 おっと、さん喬師匠の高座のつかみみたいになっちゃった。
 この原稿が今年最後になるので、ちょいとこの一年を振り返りますね。
 大切な公演、演者さんの芸の神髄、大好きな芸人さんの訃報など、演芸に携わる一人として様々なことを感じた一年でした。
 忘れられない、忘れてはいけない個人的な出来事は書きだしたらとりとめがないので、演芸エッセイとして、ひとつだけ書き留めておきたいことを綴りますね。
 今年、最も注目された映画『国宝』と落語のつながりのこと、お伝えさせてください。

落語界の『国宝』


 映画『国宝』、皆さんもご覧になったことでしょう。
 主演のお二人もとても素晴らしかったのですが、僕は個人的に敬愛している田中泯さんの静謐な演技とみごとな踊りに惹かれて映画館に足を運ぶこと3回。原作との構成の違いも勉強になりました。

 さて、今回、お伝えしたいのはここからです。

 この『国宝』の核になる歌舞伎『曽根崎心中』。
 そして、この『曽根崎心中』を下敷きにしてできたのが、落語『お初徳兵衛』。その『お初徳兵衛』のスピンオフ的滑稽噺が『船徳』ということを先ずは、まだ落語の魅力を知らない方にお伝え頂きたく存じます。
 今年の映画『国宝』の大ヒットを受け、映画から辿って頂き、落語に関心を持ってくれる人々が増えるといいなあと密かに思っております。

 ここまででも、大ヒット映画と落語はつながるのですが、お伝えしたいのは更にこの先。

 近松門左衛門のこの名作『曽根崎心中』は昭和初期には頻繁に上演されていなかったとのこと。しかし、これでは勿体ないと、近松生誕300年にあたる昭和28年に脚色、演出し直して、いま演じられているかたちに成し遂げた功績者が現れる。いわば、『曽根崎心中』の救世主です。

 それが、作家の宇野信夫さんです。

 宇野先生は、明治37年生まれ、平成3年没。昭和を通して活躍した戯作者でもあり、歌舞伎の演出家でもあり、小説家でもあります。
 そして、この宇野信夫先生は歌舞伎同様に落語も愛されていた。

 若い頃には、柳家五楼時代の古今亭志ん生をはじめ、桂文都のちの土橋亭里う馬、春風亭柳楽のちの三笑亭可楽などと安酒を酌み交わしていた御仁でもあります。

 当時、まだ売れる前の志ん生さん達と飲みかわしながらの逸話を面白く書いているエッセイもあるので、ぜひお読み頂きたい。僕にとって宇野信夫さんは、同じ大学の同じ学部の偉大な先輩でもあるので、爪の垢でも煎じてと以前から著書に親しんでおります。

 この宇野先生、落語の名作もしっかり残していらっしゃる。
 一番有名なのは、六代目三遊亭圓生『圓生百席』(ソニー・ミュージックレーベルズ 来福)に収録されている『江戸の夢』でしょうか。現在では立川志の輔師匠や入船亭扇辰師匠が演じて好評を博していますね。
 この他にも圓生百席の中に宇野信夫作として『大名房五郎』『小判一両』も収録されています。いずれも名作。

 先代の金原亭馬生宛に渡した『初霜』という演目も素晴らしい作品です。『わかれ霜』という題で宇野信夫自選戯曲集『刀の中の顔』(平凡社 昭和六一年初版)にも一幕ものとして収められています。
 『初霜』、先代馬生師匠の口演は聴いたことはないのですが、先日、五街道雲助師匠の『初霜』を聴くチャンスが訪れ一目散に行ってきました。ぶっきらぼうな剪定職人の男二人の友情がみごとに演じられていました。胸に沁みる感動の高座でした。
 その日、「雲助師匠の『初霜』を聴きに行くんだ」と、『白酒のキモチ。』収録時に白酒師匠に伝えたら、「いいですねえ」と遠い目をされましたよ。金原亭にとっても貴重な演目なんだということがわかりました。
 その時、『大名房五郎』も好きな噺ですと白酒師匠が言っていたことも印象的でした。

 ことほど左様に、宇野信夫先生を通じて、映画『国宝』から繋がる落語の世界。近い将来、曽根崎心中と宇野信夫作品を散りばめた落語フェス的なことができたらいいなあ。もし実現できたら、白酒師匠版『大名房五郎』を聴いてみたいですね。
 いつの日かこの夢が叶いますように。

 さて、今年の『ババのきもち』はこの辺りで。
 今綴った夢のことを、3日後の12月30日『白酒のキモチ。』公開収録の下北沢711の白酒師匠とのトークでぶつけてみますね。さあ、どんな反応でしょうか。

 お楽しみはこれからだ。
 皆さま、良いお年をお迎えください。