ババのきもち。

桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。

2026/03/25

『白酒さんとのズレズレ日記』 其の十六 2026年3月25日

 桜が一斉に咲きましたねえ。さあ、お花見だ!と思いきや、雨降りの午後です。この時期、よくありますよね。寒の戻りなんてがっかりしないで、これが春の表情です。〈花冷え〉なんて素敵な言葉もありますから、春寒も風流のうちでございます。

 でも、花粉症の方はそんなのんきなことは言ってられないそうでして。桜より1か月は早く“いよいよ始まっちゃったねえ”と、春の訪れを杉の花粉で感じちゃうんですよね。まあ大変。花冷えどころか、はな鼻炎。こりゃ風流とは縁遠い。

 春の初めに、杉の花の落語なんてのがたくさん出てくると面白そう。春風亭昇太師匠の『花粉寿司』はダークション!という擬音のリズムが楽しい爆笑演目ですよね。古典落語の『くしゃみ講釈』を花粉症のマクラから入る師匠方もいらっしゃいます。

 とはいえ、なんといっても春は桜。花は桜木、人は庶民であります。

 ちょいと前から、寄席でもホールでも落語の高座では桜の噺が真っ盛りですね。
 桜の落語演目のなんと多いこと、思いつくままに並べてみても、長屋の花見、鼻ねじ、花見の仇討ち、花見酒、花見小僧、鶴満寺、花見心中、あたま山、などなど。小噺程度でも、さくら鯛、とかね。新作落語でも、三遊亭白鳥師匠の『ラーメン千本桜』、立川志の春師匠の『お玉桜』など優れた名作もあります。

 古典落語で桜の名作と言ったら、なんといっても『百年目』でしょうか。今年の春もたくさんの師匠方で聴いております。
 お堅く厳格で知られる大店の一番番頭さんが、向島の満開の桜の土手で繰り広げるご陽気なお遊びの顛末。前半の大店での一番番頭の厳しい小言場面からその番頭がお忍びで遊びに出る緊張の場面、中盤の舟遊びから桜満開の下での芸者遊びが一転して御主人に会ってしまうしくじり場面、後半の心の葛藤から商人主従が分かり合う場面まで聴きどころ満載のこの噺。一番番頭の心が、桜のように満開になったり散り始めたり。
 演じ手の解釈によって、主従関係に重きを置いたり、番頭のしくじりの面白さを強調したりと、描き方が少しずつ違うのも楽しみのひとつですね。



 以前、鈴本演芸場の企画でこの『百年目』を白酒師匠と雲助師匠の親子リレーで演ったことがあります。これが実に面白くて、印象に残っているんです。

 どの場面で上(前半)と下(後半)を分けるのか興味深かったので、白酒師匠に構成のコツを質問したことを覚えています。番頭さんが芸者遊びでご主人に会う場面で折り返し、つまり疲れる前半が僕で、落ち着いた後半が師匠、とのこと。さすが白酒師匠、実にすっきり明快な答えでした。

 このように、名作『百年目』を、雲助・白酒の天才師弟で上下に分けたことで、噺の味わいがとてつもなく深くなったのです。
 前半、白酒師匠は一番番頭の行動としての表と裏を実に楽しく描き、桜満開の陽のイメージを大いに醸し出し大いに笑わせ、御主人との突然バッタリの落胆ぶりとの落差が効果的でした。

 後半、雲助師匠は、一番番頭と御主人の心の深層と感情を見事に描き出しました。番頭が夜中に見る悪夢、疑念を持って帳簿を精査した主人の内省、栴檀の樹と南縁草の関係に主従の信頼を例える場面、後半全体に施す説得力のある語り口。実に美しい高座でした。

 桜は人間の心を比喩するのに一番美しい花だと思います。桜の花の満開の下に恐ろしさを感じさせる坂口安吾の小説のように、光と闇、生と死、エロスとタナトスが同時に存在しているのかもしれません。ちょっと大げさですかね。笑

 雲助師匠と白酒師匠の『百年目』の名演、またどこかで演ってくれないだろうか。

 そんなことを想いつつ、春はゆくゆく。
 いま僕はのんびりと、先々代桂三木助師匠が愛したという、人形町草加屋さんのよく焦げたお煎餅を食べています。センベイ食べて、春の日の夕暮れは静かです。
 おっと、うららかな午後のセンベイで中原中也を思い出してしまった。塗板がセンベイ食べて 春の日の夕暮れは… でしたね。

 さて、脱線したところで、
 最後にひとつ大事な公演情報です。
 6月3日に白酒師匠に新作と古典ひとつずつ演っていただく恒例の会を主催いたします。毎回、大好評でお喜び頂いております。古典の名手桃月庵白酒師匠が、時折繰り出す新作落語も古典同様にものすごく魅力的なんです。

 毎度、旧暦に言葉を足して公演のタイトルをつけるのですが、6月は水無月とは別に風待月(かぜまちづき)とも呼ばれています。“かぜまち”と来たら、僕にはコレしかない、という日本のレコードが。そう、はっぴいえんどの名盤『風街ろまん』。同年代の方ならおわかりですよね。
 なので、はっぴいえんどにオマージュを抱きつつ、この落語会のタイトルを『風待月ろまん』と名付けてしまいました。会の内容とは全く関係ないのですが。
 ゲストは、独特な新作落語で評判の若手、瀧川鯉八師匠。
 ぜひ、お集まりくださいね。
 詳しくは、ざぶとん亭風流企画のホームページでご確認あれ~。


ざぶとん亭風流企画 http://wp.zabutontei.com/