ババのきもち。

桃月庵白酒WEBラジオ「白酒のキモチ。」からのスピンオフ連載。
ざぶとん亭風流企画の馬場さんの“独り言”、毎月更新します。ぜひお楽しみください。
感想お待ちしています~。

2026/04/20

『白酒さんとのズレズレ日記』 其の十八 2026年4月20日

 のどかな春の日がどんどん進んで気持ちが良いのです。
 けれど、きな臭い情勢が止むことなく続いているのは困ったもんです。
 そんな今、落語『一目上がり』に出てくる縁起の良い掛け軸、七福神が乗った宝船の絵に添えられた回文を日本のみならず世界中の人々にお届けしたい。そんなババのきもちです。
 落語ファンの皆さんには、もうお馴染みですよね。そう、この回文です。

 “長き世の遠(とお)の眠りのみな目覚め波乗り船の音のよきかな”

 上から読んでも下から読んでも、

 「なが(か)きよの とおのねむ(ふ)りの みなめざめ なみのりふねの おとのよきかな」

 『一目上がり』では掛け軸として登場しますが、元旦の夜、この宝船の刷り物を枕の下に置いて寝ると良い初夢が見られるということで江戸時代に流行したそうです。楽しく手軽な縁起物ですね。

 こんなに良く出来た、しかもめでたい回文を誰が考えたのか?
 残念ながら、作者は不明というのが揺るぎのない定説であります。江戸以前の文献にも登場するそうですよ。いつの世にも、風流な才人はいるものです。

 でもね、あくまでも俗説ですが、徳川家康の作とも流布されています。眉つばですがね。ま、誰の作にせよ、長い戦国時代を経て、やっと戦乱の無い徳川さまの時代が来たことを慶び、本来の平穏が戻ったことを“皆目覚め”と思った江戸の庶民の切実なキモチが、この俗説を産んだのではないかと推測しています。

 この平穏を喜ぶ大衆のキモチ、ババの中では共同幻想と呼びたい大切な俗説です。

 こう考えると、落語に出てくるこの回文が単なる縁起の良い言葉を超えて、平和へのおまじないのようにも感じます。切なる平和、平穏への希求といっても過言ではないとも思います。
 そんな訳で、落語『一目上がり』のこの回文をとても大事に思う今日この頃です。
 いつの世も平和が一番です。

 さて、言葉遊びとしての回文、ずいぶん昔から様々な風流人が作っていたようです。上質な言葉文化ですよね。廻文とも表記され、江戸の俳諧でも面白いものをいくつも目にします。

 落語『汲みたて』の原案となった笑話も掲載されている滝亭鯉丈(りゅうてい‐りじょう 生年不詳 – 1841/7/27)の『花暦八笑人』にも、

 “砧の音を野狸”(きぬたのおとをのだ(た)ぬき)

 という短い回文が出てきます。トントン叩く木の砧の音とポンポコ狸の腹鼓が重なって可愛いな。

 落語界隈、ちょいと前ですと“談志が死んだ”なんて回文も有名でした。立川談志師匠ご本人がお亡くなりになるずっと前から面白がっていましたもんね。
 現代でも回文作家という人は何人かいらして、絵本になったりしているのを見かけます。
 この機会に、ババが注目しているひとりの回文作家さんをご紹介しますね。

 コジヤジコさんという人物です。

 彼の作る回文は面白いだけじゃなくて、同時代感覚があり、抒情的な味わいがあったり滑稽だったり、実に魅力的なんです。

 今、表参道の老舗、山陽堂書店のギャラリーで個展『詩だし、星だし。』を開催中(4月16日~5月9日 祝・日休み)ですが、皆さんがこのエッセイをお読みの頃には終わってるかな。

 この個展は、
 “感謝し、写真可” (かんしゃし・しゃしんか)
 と告知されていて、情報拡散OKでしたので、お言葉に甘えて、ここでも二つだけ紹介しますね。


 “力士思い込め、恋も押し切り”(りきしおもいこめ・こいもおしきり)

 “ダンナ墓に無いなら死体誰? 抱いた知らない何かは何だ?”(だんなはかにないならしたいだれ・だいたしらないなにかはなんだ)

 抱いた知らない何かは何だ?って、なんか粗忽長屋っぽいですよね。笑

 コジヤジコ氏は何冊か絵本も出版しているし、SNSのXで検索すると、すぐに辿り着けます。
 そうそう、嬉しいことに、コジヤジコ氏から、落語ファンの皆様へ、ということでひとつの回文を受け取っております。

 “極楽ワハハ! 湧く落語!”(ごくらくわはは・わくらくご)

 おみごと! ありがとう、コジヤジコさん。
 この落語応援の回文、ぜひキモチルの皆さんで流行らせてください。

 さてさて、今回のババちゃんは回文のことばかりで、白酒さんが出てこないのかしら?という声が聞こえてきそうですね。
 心配ご無用。この四月中盤、相変わらず僕は、白酒師匠はじめ色んな会に通ってますよ。さっとリポートです。

 4月10日に甲府で恒例の落語ぶんがく亭・柳家喬太郎師匠の回を主催して、すかさず翌日には立川志の春師匠が八面六臂の大活躍の芝居『死神』を新宿サザンシアターで。

 SWAのクリエイティブツアーも2回行って、四師匠の創作魂の凄さに脱帽しましたねえ。

 朝日名人会で本寸法の古典落語をとことん堪能した後、早足で三軒茶屋のシアタートラムに移動して、予約抽選に外れたケムリ研究所の芝居『サボテンの微笑み』の当日立ち見券をゲット、3時間超えを夢中で観たもんね。立ち見は池袋演芸場で慣れてるからへっちゃら。緒川たまきさん、鈴木慶一さん素敵だったなあ。ケラさんの台本、冴えてましたよ。

 特に、4月15日は充実してました。立川談寛真打披露の会からの白酒師匠の独演会『まるごと白酒』(ラルテ主催・日本橋劇場)。
 白酒師匠ノッテましたねえ。
 キレッキレのマクラからの『真田小僧』。きちんと“さつまにおちた”の最後まで演ってくれるのがありがたい。二席目は『錦の袈裟』。他の誰とも違うオリジナリティを感じる名演。この噺の与太郎さんは男前、おかみさんの内助の功のおかげだね。仲入り後は『宿屋の仇討ち』。随所に笑いの地雷がはめ込んであるのでドッカンドッカン客席の爆笑を巻き起こしながらテンポ良く。
 まさに、珠玉の三席でした。

 そんなワタシの10日間。あら、いつ働いているのかしら、という声も聞こえます。年がら年中この調子。♪住所不定無職おまけに低収入、という細野晴臣さんの名曲がテーマソングのババちゃんなのです。

 本日は4月20日。3日後に開催する春風亭一之輔師匠の新シリーズの準備に入ります。シークレットゲストはなんと、次回ウェブラジオ『白酒のキモチ。』のゲストさんと同一人物。白酒師匠と一之輔師匠と時間差である人物をプッシュいたします。おすすめの才人ですよ。ライブもウェブラジオもお楽しみに。

 そして、6月3日は『新作・古典一つずつ 桃月庵白酒 風街月ろまん』ゲスト瀧川鯉八。このシリーズ公演、とてつもなく好評です。皆さま、ぜひ、お越しください。古典の名手・桃月庵白酒師匠の新作落語も聴けるチャンスですし、今回は鯉八師匠とのマッチアップも乞うご期待。
 チケット一般発売は5月7日、ぴあ、イープラス、ざぶとん亭です。

 そんなこんなで、また次回!